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学術ネットワーク (1991)

これは、1991年に書いたものです。

はじめに

わが国には学術研究のためのネットワークとしてさまざまなものが存在してい て、活動を行なっている。それぞれ、研究分野の特性を反映した発展をしてき ている。

ここではこのネットワーク全体で利用可能な基本的サービスであるメッセージ 交換と、世界的なネットワークの一部をなし、研究分野を問わず利用できる日 本の広域ネットワークについて簡単に解説したい。

メッセージ交換

メッセージ交換は広域ネットワークの基本的なアプリケーションである。電子 メール、ネットワークニュースを利用した情報交換はもはやコンピュータを利 用する研究環境にはなくてはならないものである。

最近、パソコン通信が流行して、電子メールや電子掲示版の利用が普及しはじ めた。しかし、これらのパソコン通信はユーザがセンタに電話をする必要があ り、実はホストをTSSによって利用する時代遅れの形態の焼き直しにしかすぎ ないのだが、コンピュータを介したメッセージ交換が有効な情報交換手段であ ることは最低限認識されると思う。

ネットワークの電子メールの利点は、自分のコンピュータに入っている情報な らなんでもそのまま、コマンド一つ打ち込むだけで送れることである。離れた ところにいる研究者の間で協調して研究を進めるためにこれほど強力なツール はない。ネットワークの接続形態にもよるが、最近は数分から数時間で全世 界に到達可能になった。複数の人に同じメッセージを送ることも容易なので、次 のネットワークニュースと同様に情報交換にも利用できる。

ネットワークニュースは、いわゆる電子掲示版システムに類似したものである。 わが国では JUNET でこれを行なっている。ネットワークニュースは情報の宝 庫である。マスメディアにはのりにくい情報もそこでは交換されている。双方 向のメディアであるので、自分から主体的に情報を求めると電子メールやニュー スで反応が返ってくる。現在全世界規模でニュースの交換が行なわれている。

コンピュータ関係の情報が多いのはもちろんであるが、化学関係の情報も増え ている。半経験的分子軌道法のプログラム Mopac の最新版はネットワークで 入手可能 (ouchem.chem.oakland.eduから、anonymous ftpできる)で あるし、オハイオ州立大学スーパーコンピュータセンターで開設されているコ ンピュータケミストリーメーリングリスト(chemistry@osc.edu)では 一日数通のメールがかわされている。

インターネットコミュニティ

日本の研究ネットワークで最大のJUNET は、UNIX の通信技術を応用して実験 的にスタートしたネットワークである。今年で6年目である。始まった当初の JUNET と現在のものは大きく異なって来ている。そこで、ここでは JUNET と いうネットワークを、日本の ISO の国別コードである jp をトップドメイン とするアドレス表記に基づいているメタネットワークを表すことにしておく。

JUNET は現在、WIDE, TISN, JAIN という三つの Internet Protocol (IP) によって 結合されているネットワークと、従来の UNIX の公衆電話回線を用いた間欠通 信技術を用いた JUNET からなる文字通りのインターネットワークとなってい る。

WIDE (Widely Integrated Distributed Environment) Project は、慶応大学 環境情報学部助教授~~村井 純氏を中心する大規模広域分散環境の構築および それに関する技術の確立を目指した研究プロジェクトである。WIDE Project は慶応大学湘南藤沢キャンパスとハワイ大学との間の海底ケーブルを通じた 64Kbps の接続をし、藤沢、東京、京都、大阪、福岡の各ネットワークオペレー ションセンタ(WNOC)を 64Kbps~192Kbps のデジタル専用回線により結合し、 各 WNOC に参加組織がそれぞれ、専用線によって結合するという形態をとって いる。

TISN (Todai International Science Network) は東京大学理学部を中心とす る理学系研究のネットワークである。東京大学理学部とハワイ大学との間にや はり 64Kbps の接続をもっている。国内各参加組織は東大理学部との間に専用 線、あるいは学情網を利用した結合を有し、スター型の結合をしている。TISN は、物理学の分野で多く利用されてきた DECnet protocol を IP の他にサポー トしている。

JAIN (Japan Academic Inter-University Network) は、学情網 X.25 の上に、 IP を使って結合を行なっているネットワークで、北大、東北大、東大、名古 屋大、京大、阪大、広島大、九大を基幹にして、多くの大学をつないでいる。

この3つのネットワークは、東京大学、大阪大学において相互に接続されてお り、互いに協調しながら、日本のインターネットコミュニティを形成している。

このインターネットのノードにさらに、公衆回線を用いた結合で多くのサイト が参加し、日本の Research Network を形成している。1991 年 2 月末現在での 参加組織は、460 である。

JUNET は、世界的な Internet の一つのドメインとして認知されており、全世 界と透過的に通信が可能になっている。

WIDE, TISN, JAIN の IP network の間では、UNIX マシンからは、Ethernet で接続された場合と速度の違いを除いたすべてのアプリケーションが利用でき る。これは、海外の Internet でも同様であり、自分のワークステーションか ら、となりのワークステーションを利用するのと全く同様に、アメリカのコン ピュータを利用できたりする。しかし JUNET 全域で利用可能なサービスは、 電子メールとニュースである。

BITNET

JUNET の他に、世界の科学者にユーザの多いのが BITNET である。BITNET は 主に IBM 系のコンピュータを利用する科学技術計算を用いる研究者の間ネッ トワークとして発展した傾向がある。BITNET は、VMS をオペレーティングシ ステムとする DEC や、UNIX などの計算機でも稼働するが、大多数は IBM 系 のマシンである。

BITNET と Internet はさまざまなところでゲートウエイが行なわれており、 互いに電子メールを交換することができる。