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インターネット最新事情-米国編 (1993)

これは、1993年に書いたものです。

はじめに

近年、インターネットに対する関心が高まっています。電子メールでは 130 ヶ国あまり、また IP 接続 (主に専用回線による LAN 間接続の形態により、 より高度なアプリケーションを提供する) で接続されている国も 60 ヶ国に迫 ろうとしています。世界中につながっているという広い相互接続性と、技術的 に柔軟な可能性とを合わせ持っており、爆発的な成長を続けています。

さる 8 月 18 日~ 20 日、サンフランシスコで、インターネット協会主催の 国際会議 INET ’93 が開催されました。インターネット協会は、アメリカで生 まれたインターネットが、世界の共通の重要な技術、資源であるという認識の 下に、1992 年 1 月に創立された組織で、現在、世界のインターネットの調整、 技術開発に携わる人々の集まる場として、その中心的な役割をになっています。 筆者は、INET ’93 に参加することをおもな目的として、この前後アメリカを 訪れました。

今回は、INET ’93 の話題と、その前後見聞きしたこと、感じたことをアトラ ンダムに綴ってみます。

INET ’93

INET は、昨年神戸で INET ’92 として開かれ、インターネット協会発足後の 国際会議としては 2 度目になります。

インターネットは、もともとがアメリカで生まれたもので、アメリカでの広が り、普及にくらべて、ヨーロッパも含め他の国々での普及とはまだまだ大きな 開きがあります。日本も順位的な意味あいではかなり上位に位置付けられます が、アメリカに比べたら 2 桁くらいその普及の度合は低いでしょう。

今回の INET がアメリカで開かれたのは、非常にタイミングがよかったといえ るでしょう。というのは、アメリカの新政権 “クリントン・ゴア” 体制によ るいくつかの情報政策が打ち出されており、この会議の基調講演にもその話題 は取り上げられました。

最終日には、ゴア副大統領が上院議員の時代から政策スタッフを勤め、現在は 大統領直属の科学技術政策局で NII (National Information Infrastructure) の責任者として奔走しているマイケル・ネルソンが急遽駆けつけ、NIIを中心 に米国政府の情報スーパーハイウェイ政策についてのスピーチを行ないました。

この中で、彼は NII はアメリカ中をネットワークでつなぐだけでなく、全世界につ ながると話していました。

NII は GII (Global Information Infrastructure)の一部となるもので、NII は 政府が直接つくるのではなく、政府は研究開発、技術の実証、大学などへの資 金的な支援、通信規制政策や情報政策を通して、NIIの発展を間接的に刺激す る役割を果たす。

学校がインターネットでつながることで、世界中の生徒同士が電子メールで交流 し、教師がカリキュラムなどの資料を自由に入手できるようになる。

NIIの大半の部分はは民間企業が市場の競争を通して構築していく。

などと語っていました。

一方、今年の会議は昨年よりも、技術的な話題にかなり偏ったものであったと もいえます。というのは、インターネットの爆発的な成長によって、それを支 える新しい技術、プロトコルの開発、そして高速ネットワークの現実的な運用 へ向けての動きが急速に進んでいるためでしょう。そのため限られた時間の中 での会議としては、インターネットの利用に関する議論よりも技術の開発研究 にその焦点が当たってしまったと思われます。高速ネットワークの現実性に関 しては、この翌週おなじくサンフランシスコで行なわれた Interop で顕著に 見られました。

Interop ’93

Interop は、その名からも分かるように Interoperability (相互接続性) に 焦点を当てた、展示会+会議です。ネットワーク関連機器の相互接続を中心に、 新しい技術、機器の展示会を併設し、それにかかわるセッションが行なわれま す。Interop の目玉は InteropNET という出展各社の機器を相互に接続したネッ トワークです。ここで、出展各社は、ネットワークで他社の製品との間の Interoperability を確認し、来場者に見せるわけです。

そこで今年、目だったのは ATM (Asyncronous Transfer Mode) 技術による、 高速ネットワーク機器と、そのサービスです。ATM は 100 Mbps 以上の高速ネッ トワークを実現します。ATM は、LAN として利用することもできますが、やは り長距離通信をも ATM によって実現し、現在の専用回線による接続を置き換 えていくことでしょう。Interop でもすでに ATM によるサービスを計画して いることを発表しているところもありました。

高速ネットワークの実用化に関しては、CATV と通信サービスの融合が一つの 注目される話題です。いくつかの実験サービスが今後行なわれるようです。

シリコンバレー

さて、最先端の動向から、今度は手の届く市場の話しに移ります。サンフラン シスコから、フリーウエイを南へドライブをしていくと、そこはシリコンバレー です。サンホセから、サンフランシスコ湾周辺 (Bay Area) に広がる地域には、 無数の大小のコンピュータ関連会社があります。また、コンピュータショップ も非常に多数あります。

Interop もおととしまでは、サンホセで開かれていました。このあたりにくる と、コンピュータショップを回るのも、重要な仕事 (?) の一つです。

このあたりのコンピュータショップの広告を主に集めた MicroTimes という雑 誌 (無料) が、サンフランシスコ市内の街角にもおかれています。

パロアルト周辺には、スーパーマーケットさながらの巨大なショップがいくつ かあります。Fry’s、CompuUSA などが代表です。また、店はビジネスパークの なかにあって、通信販売を主にしているところもあります (筆者のよく利用す るショップもこういうところでした。今回はドライブがてら訪問してきました)。

巨大なショップの品揃えには、まあともかく驚くのですが、まず、モデムの価 格の下落ぶりには驚きを隠せません。V.32bis (14.4Kbps) のモデムが、$200 を切るようになっていて、山積みになっていました。円高のせいで今回は、よ り魅力的に見えたわけですが。

帰国後、秋葉原にも足を運びましたが、コンピュータ本体、メモリ、ディスク などはまあまあ価格差が縮まってきましたが、ネットワーク関連機器の値段が まだまだ 2 倍以上の開きがあります。Ethernet インターフェースは、日本で は広告で探すのはほとんど不可能ですが、アメリカでは他の機器と差があるわ けではなく、陳列されています。

なにより、パッケージソフトウエアの価格に関しては、論外です。今回、つい にショッピングカートに山積みという暴挙をしてしまいましたが、それでも 15 万円程度でした。

個人でアクセスするインターネットサービス

裾野の広がりは、当然多様なサービスを生んでいます。筆者は、アメリカに行っ たときに、インターネットアクセスをする手段として、いくつかのサービスに 加入しています。Netcom online communication と UUNET TAC がそれです。 UUNET TAC は、基本的には、モデムにつなぐと自分のホームマシンに転送する というサービスなので、すでにインターネットにつながっている人が旅行した ときに利用するサービスです。

Netcom はシリコンバレー周辺から生まれたサー ビスですが、ワークステーションにアカウントをもらうだけに近いものです。 さまざまなソフトウエアがインストールされていますが、重要なのは、インター ネットにつながっていることです。ここから、インターネットにメールを出す ことはもちろん、日本にある自分のマシンにログインすることもできます。当 然インターネットの全てのサービスを利用できるわけです。

また、最近は大手のパソコン通信もインターネット接続を行なうようになって きました。まず、メールからですが、今後いろいろなサービスが行なわれてく るでしょう。

おわりに

インターネットは、研究分野のインフラとして構築が行なわれ、アメリカでは ほとんどの大学がインターネットに接続され、分野を問わず利用できる環境が かなり整っています。そのため多くの人にインターネットの重要性が認識され ています。

日本では、大学全体がインターネットを利用できる環境にあるのはまだ非常に 少数です。インターネットは、計算機センターまで足を運ばなければ使えない のでは意味が薄く、自分の机の上のコンピュータから、連続的に利用できては じめてその効果があります。

この点では、日本ではコンピュータの使い方自体が、各人の机の上にあるとい う形態ではないことが多く、ネットワークの重要性が今一つであるともいえま す。モデムを使う場合には、電話代をはじめとするコストがやはり高く、市内 通話が時間無制限のことが多いアメリカとでは大きな差があります。

商用、個人の利用に関しては、アメリカでもやっと本格化してきたところで、 日本で他の問題ほど大きな開きがあるわけではないと思います。

とりまく環境が大きく異なる日本とアメリカで直接サービスを比較するのは、 無理があります。今後の発展に関しても、市場、政策、規制などの要因を含め、 未知の領域です。しかし、利用者の要求こそがこの状況を変える大きな力であ るはずです。この点で、アメリカのゴア副大統領がテレビのインタビューに答 えて、「消費者の立場に立った変革」を行なうと語っていたことは重要な視点 です。

機会があれば、次は日本国内の事情と問題点を取り上げたいと思います。