松岡正剛、金子郁容両氏と対談を行って作った、「インターネットストラテジー―遊牧する経済圏」という本がある。私が、IIJを辞める直前だったと思う。当時、松岡氏は NTT の主催する情報文化研究フォーラムの座長を努めていて、急速に発展してきた、インターネットについても取り上げられ、私も参加させていただく機会を得た。はっきり覚えていないがそのあたりがこの本を作るきっかけだったと思う。
当時、金子氏はボランティアがテーマで研究活動をしていて、インターネットや、フリーソフトウエアにおけるボランティア性という問題は、私のプレゼンテーションの中にもよく出てきた問題であったので、そのあたりがこの本の中にも現れていると思う。
松岡氏は、私が大学生のころ、「遊」という雑誌の編集長をしていた。この「遊」という本は、特にジャンルにこだわらないのだが、きわめて思想的な議論をしている本で、その上、グラフィックデザインや、本全体がなにかやたらと凝っているのである。これをカッコいいととらえる人も多く、小難しいことを言いたがる学生には、人気の高い雑誌だった。
わたしも、科学、技術には思想があると思っている。というよりは、もともと自然そのものに思想が内在しているのであって、それを Theory として発見しているに過ぎないと思う。自然の Theory を理解することができれば、技術や、科学を理解できるが、現象を個々に見ているだけでは、ただ難しい、分からないとしか感じられず、技術の習得も丸暗記になってしまうだろう。
こうなるはずだ、こうであるはずだ、というものは、自然の中に存在していて、それと異なるものが存在しうるということはできないし、仮に、目の前で、できたとしてもそれは不合理であり、長期的に合理的に存在し続けられるものではない。
そういう点で、水は高いところから低いところに流れるし、濃いものと薄いものが混じれば、いずれは均一になる。ネットワークにおいても同じことが起こるはずだ。それを無理に留めることは、一時的には出来ても必ず崩壊する。エントロピーは増大するのである。
そんな話を、私と、金子氏ですると、松岡氏が彼の豊富な知識の中から対比する思想的なエピソードを交えながら整理していくという、そういう交わりで対談が進み、一冊の本にまとまっている。
私にとっては、非常に貴重な経験であった。
最終更新日: $Date: 2008-11-01 13:55:13+09 $