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ダイアルアップIP接続 (1995)

これは、1995年に書いたものです。

ダイアルアップ IP 接続サービスが花盛りで、インターネットというと、ダイ アルアップIP でつないで、WWW でネットサーフィンをするということと思っ ている人も結構多いという状況もあるようです。専用線でつないでいるのをわ ざわざ「つなぎっぱなし」と言って区別するということまで起こって、普通の ユーザが利用する環境はダイアルアップだと思われています。

インターネットはさまざまな接続技術を寄せ集めて、LAN 間接続、ネットワー ク間接続を繰り返しているネットワークです。目の前にある手段は、つなげる ためにはなんでも使うというどん欲なネットワークの拡大精神から、さまざま な接続形態を利用しています。乱暴に言えば、線があればなんとでもなるわけ です。線がないと書いて無線というのもあるので、線があればというよりもっ と激しいかもしれません。同じ建物の中であれば、より対線を使って Ethernet で 100m までの間を接続することができます。アメリカでは、さま ざまなことが行われています。CATV 用として引かれた同軸ケーブルを Ethernet もどきとして使って、256Kbps ~ 10Mbps 程度の通信を行うなどの 試みは何箇所かで行われています。無線 LAN や、赤外線 LAN の機器を使うと 線を直接引くことができないところを跨いで LAN を延長できます。

ダイアルアップ IP もありあわせの線を使って、IP 接続をする技術として実 はインターネットの初期には乱暴者の代表として活躍しました。現在は PPP が主流ですが、かつては SLIP が使われました。

約 10 年前、非同期の RS232C 等のインターフェースを利用して IP 接続を行 い SLIP (Serial Line IP) が開発され、非常に容易に IP 接続を行うことが できるようになりました。今のように立派な FDDI などの光ケーブルを使った バックボーンネットワークを持つキャンパスネットワークのできる前、まだ私 が東大で助手をしているとき、建物内は Ethernet を引けるものの、建物間に ついては構内モデムと構内電話設備を流用して、38.4Kbps や、51.2Kbps (現 在の PC の 57.6Kbps という系列とは異なる) などで SLIP で接続してキャン パスネットワークをゲリラ的に作りました (某J氏はマンホールに入ってケー ブルを引いたとテレビで説明されていましたが :)。本郷と駒場間もメインフ レームの端末用の回線をかすめとるような形で、SLIP でつなぎました。この 時は DEC Ultrix 2.0 でダイアルアップ SLIP の形態が実装されたのを機に、 電話をかけるわけではありませんが、ポートセレクタという接続相手を番号で 選ぶ機器に対して、チャットスクリプトを書いて、SLIP 接続を行いました。 ところが上には上がいるのもで、同様のテクニックで九大と東大の間をダイア ルアップ IP 接続した猛者もいました (もう時効だとは思いますが、誰とは言 いません 🙂 これが、日本のインターネットの草創期の出来事でした。

この例のダイアルアップ IP 接続は、つなぎっぱなしでも構わない回線を使っ ています。一般のサービスでは従量課金をされているもので、されないところ 利用してありあわせの線を使った例としては、学術情報センターの X.25 網 (当時主にメインフレームコンピュータ間のネットワークとして利用されてい た) を利用して IP over X.25 によってネットワーク接続をした、JAIN (Japan Academic Interuniversity Network) という大学間ネットワークがあ りました。現在は学術情報センターが SINET という IP バックボーンを提供 しているために、ネットワークとしての機能は消滅しました。

ダイアルアップ IP, IP over X.25 ともにアメリカでは非常に安いケースがあ るので、つなぎっぱなしで利用されていました。

インターネットはあくまで双方向の対等なネットワークであり、双方から相手 側のコンピュータが見えているというのが重要なポイントです。

ダイアルアップ IP の開発の要請と、インターネットの本来の利点が、ダイア ルアップ IP サービスの普及ということでユーザの目からは見えなくなり、忘 れられて、安いサービスとして、簡易版として提供されているものダイアルアッ プ IP がインターネットだと思い込まれてしまうのはあまりいいこととは思え ません。

もちろん手軽にインターネットが使えることはよいことですが、ダイアルアッ プでわが国の高価な電話系の交換網を利用するということでのコスト高は避け られないでしょう。

ダイアルアップ IP の適用範囲は

  • 個人、数人での利用
  • 自宅からの利用
  • 会議等の臨時利用
  • 障害時のバックアップ

などです。現在サービスとして提供されているものの多くは、コンピュータの シリアルインターフェースを使って接続し、接続を行っているコンピュータ一 台だけがインターネットにつながるというものです。

しかし、ダイアルアップ IP はそれだけではなく、ネットワーク間接続にも利 用できます。ISDN ルータは PPP の普及に伴って相互接続性を確保できるよう になり、現在非常に便利に使えるようになりました。そのため、WWW サーバを 設置するような場合を除いては 64Kbps での接続に関しては ISDN も利用時間 が少ない場合には非常に有効です。ネットワーク型のダイアルアップサービス がこれに当たります。

NTT でも、夜間定額制 (テレボーダイ) の導入で、限定的ながら、ダイアルアッ プでのつなぎっぱなしを実現できるようになりつつあります。INS に関しても 年内に導入されるといわれています。だだし、ダイアルアップはシリアル回線 接続で、1つの相手に対して一つのインターフェースを用意しなければならず、 100 人がつなげば 100 台のモデム (TA, インターフェース) が必要になりま す。このあたりかんがえて設計をしないとなりません。最近の WWW の全盛は 64Kbps を何人もで共有できるような状況ではないのですが、いつもトラフィッ クがあるわけではないので、何人かで共有するほうが合理的です。

新たな通信サービスが提供されて、ダイアルアップでなくともインターネット を手軽に安く利用できるようになるまでは、これは必要な技術ですが、料金体 系の変動に合わせてその運用は見直していかないといけないでしょう。