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つながらないインターネット (1995)

この記事は、1995年に書いたものです。

11月15日、朝日新聞朝刊に「つながらないよインターネット」という記事 が掲載された。定額制のダイアルアップ IP のプロバイダで、電話を掛けても つながらないという話しからはじまり、果ては悪質とまで言って、モラルの問 題という指摘まで行われている。

この記事がインターネットブームでのプロバイダの乱立に対して、警鐘を鳴ら す意味では歓迎するが、内容に関しては、いささか説明不足であることを感じ られずにはいられない。もっともユーザは、自分がお金を払った相手に対して 文句を言うのは当然であり、その相手の持っている背景の問題点までは取り合 わないので、ユーザの視点から文句を言われることは、プロバイダは甘んじて 受け入れなければならない。

しかし、この問題を評価する立場にある人間は、グローバルな視点でひずみが どこにあるかを突き止めて欲しいと思う。

パソコンの保有とインターネットの個人利用が普及するにつれて、ダイアルアッ プでのインターネット利用は、当面急増するだろう。しかし、これはインター ネット利用の王道ではない。あくまでも一時的、周辺的な利用方式と考えた方 がよい。というのは、ダイヤルアップの場合には、インターネットの利用速度 は電話回線(またはモデム)の速度に制限され、同時に、利用料金は電話料より は安くしようがないからである。もちろん、現在のように、専用線の料金が極 端に高価な時には、ダイヤルアップ方式を選ぶのもやむをえない。しかし、す べての人がインターネットを仕事や遊びに それこそ”ジャブジャブ” と快適 に使えるためには、なるべく早く、高速回線が、今の電話なみ、あるいはそ れ以下の料金でどこでも気軽に利用できるようになることが強く望まれる。

現在日本国内ではインターネットプロバイダーは大小 150 社を数えると言わ れている。もっとも香港では、あの狭い中に 200 社を越えるプロバイダがひ しめきあっているそうだし、サンフランシスコベイエリアでおなじみの、無料 の PC Shop Magazine の MicroTimes でもインターネットプロバイダの広告は 100 を下らない勢いであるから、日本はまだまだといえるかもしれない。とも かく、現在のプロバイダの乱立状況は世界的な傾向で、日本だけではない。

インターネットブームは今後もさらに加熱するだろう。多くの商用プロバイダー が登場して、そのプロバイダー間での健全な競争がおこなわれるということは 正しい市場の姿であり、その中で淘汰されて生き残るプロバイダつぶれるプロ バイダが出て来るだろう。

そんな無責任なこと、と言われても、では代わりに誰かが基準を作って、基準 を満たさないプロバイダは事業をしてはいけないとか言い始めると、規制容認 議論になって好ましくない。そんな将来の評価を確実にできるものなどいない のだから、これを他者に求めてはいけない。

インターネットへの要求は、非常に幅広いにもかかわず、それに対してサービ スは非常に限られたものしか提供できていない。

細いながらもいつもつながっていて欲しい。一度には 1 分しか使わないし、 月に何度も使うわけでもないけれども、その間は超高速であって欲しい。など など、速度や、時間についてだけでもさまざまな要求を持つユーザがあいのり している。従来は、それを大学や企業という一定の数を持つ集団で平均化して、 接続を行ってきたわけだ。

インターネットへのアクセスを行うのに、一番手前の接続を行う部分、つまり 現在のプロバイダ事業は、かつては研究グループや、同じ目的を持つコミュニ ティによって行われて来た。ある意味では、この同じプロバイダに接続してい るユーザは、インターネットでは同じバックボーンを共有する運命共同体的な 要素をもつ。接続を安くするためには、距離の要素は避けられない問題として 存在している。今後、CATV 利用などの MAN (Metropolitan Area Network) 型 のネットワークの登場を考えると、運命共同体的な要素は一段と強まってくる。 インターネットの方向性として一つは、この種のコミュニティを経由して、世 界に接続するという感覚であろう。個人向けのサービスはこのような傾向に向 かっていくものと思われる。ネットワークはコミュニティ形成の手段であるこ とは論を待たない。

インターネットへの「品質」の多様な要求はユーザが個人になったことで、大 きな問題を抱えることのなったわけだ。そういう意味では、サービスを選べる 状況になった現在は、その中から自分にあったサービスを選べばよくなったと もいえる。

このようなプロバイダーのさまざまな「品質」というものを評価することは現 実的には難しい。しかし商用プロバイダーを定量的に評価できる指標の一つとして、 当面、プロバイダー自身が自分の持つリソースの量を積極的に公開していくしかない だろう。

安かろう悪かろうでは困るが、わけあって安いというのも一つのサービスと成 立するのではないだろうか。もちろんそのわけをあらかじめ共有できるコミュ ニティでのみそのサービスを受け入れられるものであることは言うまでもない。