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提言 (1995)

これは、1995年に書いたものです。

パソコン通信やインターネットの普及は、通信サービスの形態に対してさまざまな 要求を投げかけています。実は電話そのものについても、20年前、30年前とは がらりと使い方が変わっていて、それに応じきれない通信サービスの現状に対して、 利用者の不満が募りつつあると言ってよいでしょう。

注目するべきなのは、電話および電話線を用いるコミュニケーションサービスが、物理 的にも、仮想的にもコミュニティを形づくる基盤となっていることです。自由で健全な コミュニティの発展に寄与できるような料金体系こそが、いま利用者に望まれている ものではないでしょうか。

たとえば、東京23区内はすべてが単一MA(Message Area=単位料金区域)となって いるが、隣接MAに対しては通常の通話料金が約2.5倍、専用線料金でも約2倍という料 金体系になっています。

23区すべてが単一MAである必然性はそもそもないし、一歩23区外に出た瞬間 に、利用者に異常なまでの高負担をもたらす料金体系には公平感は感じられま せん。この問題は、東京23区内への経済機能と人口集中のドライビングフォー スともなっているのではないかと思われるほどです。

MA 区分を細かいメッシュにして、距離段階的料金体系の作成、特定通話先 割引きービス等を導入することにより、個人の電話利用に関しては不合理感、 不平等感を相当減らせると考えられます。

一方、いま話題のインターネットでも、MAの細かいメッシュや特定通話先割 引サービス (たとえばテレホーダイ) を、集合住宅をカバーするAp artment Area Network、町内全域のLANともいえるTown Area Network、それを市街に広 げたMetropolitan Area Network などと組み合わせることによって、公平で健 全なネットワークとコミュニティの発展を期待することができるのではないで しょうか?

インターネットの普及は、通信サービスの形態に対してさまざまな要求を投げかけ ています。しかし、一人の利用者としてこの問題を考えてみると、じつはインターネッ トに代表される技術の発展に「ついていけない社会的な制度」がもたらす矛盾という よりは、技術の発展と表裏一体となって発展した利用者によるいわば“電話というメ ディアの使い方の変化”に対して、歴史的経緯をひきずったままの料金体系が「立ち はだかる」という問題であることがわかります。

インターネットも電話も、個人利用が少なく、利用者密度が疎であることからはじ まり、現在に至っています。すなわち、1950年代、60年代においては、電話とは公的で 特別なメディアであり、よほどの理由がなければ使わず、それも用件のみ、というも のでした。これは、多くの場合、日本の住宅における電話が玄関 に配置されていることに名残が見られます。隣人に「貸す」こともありうる装置であるため、玄関にあるべきものだったのです。

それがいまでは、ベッドルームにも電話コンセント(モジュラージャック)が設置 され、「キッチンからインターネット」という雑誌の特集が組まれる時代となってい ます。本来ならば、ここにいたるまでの40年間に随時見直しが行われるべきで した。

電話、専用線ともにMA間距離を原則に計算されます。MAとはMessage Areaを略したも ので、NTTが通話料を課金するための基本単位です。全国を567のMAに分割し、その それぞれのMAの中心に集中局があり、そこに加入者交換機が設置されています。同一MA 内であれば、3分間10円という「市内料金」が適用されます。すなわち、一つの加入者 交換機の中では、市内料金を適用するという体系になっているのです。

問題は、MAがかなりおおざっぱな区切りとなっていることと、隣接MAに対する料金 体系が、犯罪的に高いことです。東京都を例に挙げると、人口の集中している23区 すべてが単一MAであり、市内通話料金が適用されるのに対し、武蔵野市や東久留米市 など隣接MAと23区との通話に対しては、電話料金で市内通話の約2.5倍、専用線料金 でも約2倍の通話料金が課せられています。

つまり、23区の周辺部については、利用者に対して異常な負担を強いる体系 となっており、これが東京23区内への企業の集中、人口の集中をもたらす一つ の一つのドライビングフォースともなっています。多少、土地代、部屋代が高 くても、電話料金が2. 5倍になることを考えれば、23区内で生活したほうが 有利なわけです。すなわち、MAをまたがる形では、健全なコミュニティが形成 されにくいのが現実です。

実際の生活の実感でいえば、北区から大田区まで、あるいは練馬区から江東区まで 、23区を東西南北に縦断、横断して生活をすることは滅多にありません。子どものいる家庭 では徒歩圏内の通話がもっとも多く、おそらくその利用の大半を占めるでしょ う。

これを越える距離の通話のうち、頻度が高いものは特定の相手先(たとえば 郷里の両親など)にかぎられるのがふつうで、ビジネス利用ほど通話先にバリ エーションはなく、たとえあったとしても、通話時間が比較的短いことが普通 です。したがって、細かなMAメッシュと距離段階的料金体系の作成、特定通話 先割引サービスの導入で、電話の個人利用については不合理感をそうとう減ら せると考えられます。

パソコン通信やインターネットをはじめとするコンピュータネットワークに おける電話回線の利用においては、さらに不公平が拡大されています。MAの数 に比べると、アクセスポイントの数はさらに少ないのです。全国で100か所程 度のMAのみが、エリア内にアクセスポイントをもっているだけで、それ以外の MAの住人は、すべて数倍のコスト負担を強いられます。

技術的にはまったく公衆電話回線網と異なるISDNや専用線についても、同様の料金 体系が適用されています。専用線の場合、もともと光ケーブルによる接続の技術的要求 から、「15km」という距離区分が設けられていますが、これを越える場合の料金格差は とても大きいのです。同時にこれはMA間距離に等しく、東京23区内が全域15km以内であるのに 対し、隣接MAは30Km圏となり、約2倍の料金が課せられます。

専用線に関しては、電話と同様の細かいMA設定を行うと同時に、敷設の実距 離において評価し、距離に対して誰もが納得しやすい段階的な料金体系(たと えば2kmきざみの体系)を導入することが望ましいと思われます。帯域品目 (アナログ)には、“同一収容局”という区分が存在するのに対して、デジタ ルには存在しないのも不合理です。

インターネット型サービスも、利用者が一定密度を越えることを想定すると、専用 回線類似の収容局からのスター型接続が合理的であるとは限りません。  インターネットは“さまざまな伝送路をつなぎあわせて構築する”という技 術を確立しています。対して、従来の通信サービスが目標とし、確立してきた のは、“均質の網を提供する”ことでした。インターネットの特徴は、従来の 通信サービスとはまったく逆の思想をもっていることです。

インターネットは「ネットワークのネットワーク」であり、LAN(Local Area Netw ork)に代表される自営網を多数要素として含んでいます。現在の インターネットでは、中間の交換機能を有する機器で は経路制御のみを行い、 輻輳制御、誤り再送制御、フロー制御などは行なわず、両端のノードにこれを 分散させています。この点が、網にさまざまな機能を持たせて、利用者に一定 の(保証された)通信を提供してきた従来のデータ通信サービスとは大きく異 なっています。

このインターネットの特徴を踏まえるならば、まず均質の通信網を構築する のではなく、たとえば集合住宅にLAN環境を整備し、そこからインターネット 網に接続するような形態があってもよいと思われます。すなわち、集合住宅を カバーするApartment Area Network、町内全域のLANともいえるTown Area Network、それを市街に広げたMetropolitan Area Network など、現在の光ファ イバー技術の応用によって、実現可能なコミュニティネットワークを、次世代 の基盤として考えていくことも可能です。

利用者密度が上がることで、コンピュータネットワークにおける地域コミュニケー ションの比重が、電話と同じように高まることが予想されます。見られないものを見る というヴァーチャルな利用ではなく、見たから尋ねるというリアルな利用は人間のコ ミュニケーションに対する欲求からは自然なものであり、大きなものであると 思われます。