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働き方改革とICT技術

はじめに

インターネットやICT技術は、現在の我々の社会の非常に大きな変革をもたらした。その基盤となっているのは、もちろんコンピュータとネットワークという論理的なインフラストラクチャではあるが、最近では、その活用があらゆる分野に及んでいるばかりか、なによりその数量の増加は著しいものがある。

特に、この数年、スマートフォンやタブレットなどの誰しもが持ち歩く小型の情報機器の普及によって、そのスタイルは大きく様変わりしたと言ってもいいだろう。それ以前でも、ラップトップコンピュータを持ちあるき、出先でも電子メールを確認する人はいたけれども、スマートフォンのように、SNSやメッセンジャーアプリで連絡を取り合うということはなかった。

グループウェアなどのコミュニケーションツールの活用はずいぶん以前から提唱されてきた。確かに、電子メールとスケジュール管理を利用しないわけではなかったが、日本では、重たいラップトップコンピュータを常に持ち歩く人はやはり少数派であり、たとえ、オフィス環境では1人1台のPCを使うようになっているからと言っても、いままでやってきた顔を合わせて、資料を持ち寄って、会議を行うスタイルのほうが楽なので、ICT技術を活用して業務をより効率的に改善できるのではないかと、考える努力をしない。

このスマートデバイスの普及が社会にもたらした変革は、インターネットの普及と基盤をもとにしているとはいえ、これまでにはない非常に大きなものであり、PCを使わなくとも、スマートフォンを使うユーザも世界的に爆発的に増加し、情報のあり方そのものを大きく変えてしまった。

企業情報システムの背景

企業におけるICT環境がこれらの動向と無関係であるということはありえない。ところが、近年のICT環境の変化はあまりに急速であるために、企業システムの検討、意思決定の速度が全くついていかない。

特に日本型のシステム導入のプロセスでは、Waterfall型と言われる手法が採られることが未だに多いことが挙げられる。Waterfall型というのは文字通り、上流工程から、下流工程へと流れるように要件を定義し、実装を行っていく方法である。1970年代に提唱され、長年システム開発手法の規範となってきた。

この種の理論は、1980年代以前に提唱されたものが多く、現在のICT技術の実態を反映したものはほとんどない。現実問題として、こうした理論を、いまさら鹿爪らしく論じたところでどうなるものでもない。

もちろん開発手法を見直すという方式も存在する。アジャイル型開発と呼ばれるものがそれであるが、基本的には機能を小さく分割し、機能ごとに開発、評価、修正などを反復するというものである。この分割された機能には、すでに存在して動くソフトウエアが適用されることも多い。オープンソースとして、流通しているソフトウエアを組み込んで構築することもある。スクリプト型言語によって、小さなモジュールを組み合わせるという手法は、UNIXの思想として提唱されたものであり、ソフトウエア工学では重要なバックボーンの一つである。それをより高度に発展する形で新たな言語が提唱されて、発展している。オープンソースとして、多数のユーザによって利用されているものは、もちろん無償であるということもあるが、それを利用するニーズも非常に大きいことに他ならない。多くのユーザにとって必要となる最大公約数的な機能を満たしている。

日本における一つの事情

1980年代にパーソナルコンピュータ(PC)が登場したとはいえ、我が国においては、日本語を取り扱うという点において、当時、海外のアプリケーションがそのまま入ってくることはなく、アプリケーションはワードプロセッサ以外に目立ったものがあるわけではなく、かつ、我が国では大手ベンダーによる専用のワードプロセッサの販売などによって、PC用の汎用のアプリケーションの普及が十分進んだとは言えない。その流れは、大企業の業務においては、メインフレームを中心とするシステム、中堅企業においては、オフコンと呼ばれる業務専用のシステムに引き継がれ、企業におけるコンピュータシステムの活用にPCや、パッケージソフトウエアが登場するのは、比較的最近のことである。

インターネットによる変革

こうした状況を大きく変えるきっかけになったのは、国際的なインターネットの広がりであることは間違いない。日本の技術者の大きな貢献もあり、インターネットにおいては、多種多様な言語を公平に取り扱うことができるようになり、それがすべてのコンピュータシステムにおいて、今や標準になった。

一つ目の爆発は、Web技術の進化である。とりわけ、Webで従来のリモートアクセス型のアプリケーションを置き換えることを可能にしたことである。1994年にNetscape社によって提案されたcookieによって、ステートレスであるhttp でステートフルなサービスを可能にした。いまでは当たり前と思っていることだが、TCPのセッションに依存しない機構を実装したことは、その後のモバイルデバイスでの利用を促進したとも考えられる。他のプロトコルでは、原則的に信頼性は、ネットワークと、トランスポート層によって保証されることが一般的であり、そのために企業内システムのリモートアクセスのためには、VPNを必要とすることとなる。

そして、次の爆発がスマートフォンであろう。

スマートフォンの直前にも、シンクライアントや、ネットブックなどネットワーク接続を前提とする小型軽量のコンピュータを活用したシステムはいくつも提唱されてきた。これらの技術は、いまのスマートデバイスを接続したクラウドサービスに吸収されている。

実際に世界的に現実的な大きな影響を与えるようになっているのは、クラウドインフラストラクチャ(特に、Amazon, Google, Microsoft) とPCとスマートデバイス (Windows 10, MacOS, Android, iOS) が数量的に抜きんでている。敢えて、PC用のOSであるWindows 10 (Windows 8.1以前のOSは除外して)、MacOS を加えているが、これらの基本的な機能の進化の方向性は間違いなく、スマートデバイス等と共通性があるからである。

しかしながら、やはり以前の技術は、企業、団体、組織内で利用するシステムを意識して考えられてきた。技術の進化の流れに変化が出てきたのは、スマートフォン以降であろう。同時並行的にクラウドサービスの進化が起こっている。

コンピュータの数量的な増加、ユーザ数の増加はアプリケーションソフトウエアの増加につながっている。コンピュータシステムが企業の業務で使われることが主で、汎用的なアプリケーションが乏しかった時代には、Waterfall型の開発によって、システムが構築されることに違和感があまりなかっただろう。当時の企業の組織構造とも一致しており、コンピュータシステムの能力自体それほど大きくなかったということもあり、システムの複雑性も小さかった。しかし、コンピュータの適用分野は、コンピュータの小型化、大容量化、高速化によって、著しく拡大した。

変化のスピードという点では、そもそも成り立ちが異なっている。伝統的なシステム開発では、業務の分析を行い要件定義に膨大な労力を費やす。これは、業務がすでに定義されていて、それを遂行するための情報処理を行う専用のシステムを作成するという目的で行われるからだ。

道具としてのソフトウエアの活用

企業におけるシステム開発、導入手法の問題もさることながら、実は一番大きな変化は、ICT技術が会社の中で使われるものではなく、日常生活で使われるものになったということではないだろうか?

日常生活で使われるソフトウエアは、一般的な道具と同じで、一定の機能を提供して、それを利用者が必要に応じて活用するという考え方で使われる。こうしたものが、今ではスマートフォンのアプリケーション、通称「アプリ」という形で膨大な種類のものが提供されるようになった。こうした「アプリ」の裏側で情報処理を担当するのがクラウドシステムである。スマートフォンは、記憶容量のリソースが限られているので、本体内に大量のデータを保持することはもともと想定されていない。CPUもそれ程高速ではない。その代わりに常時ネットワークに接続していることが前提となっている。

したがって、スマートフォンのアプリは、いわばクラウドサービスに対するユーザインターフェースを提供するに過ぎないという見方もできる。もともと、Webサービスにもそのような側面があるのだが、メモリーやディスクに余裕のあるPCでは、速度、応答性の点でPCのCPUで処理するアプリケーション(クラウドサービスと区別する意味で、デスクトップアプリケーションと呼ぶこともある)のほうが主流であった。

Microsoft Officeがデスクトップアプリケーションの代表であるのに対して、Googleの提供するG Suiteは、ブラウザ上で利用するクラウドアプリケーションである。現状の環境では、両者に一長一短があることも確かだが、それぞれの利用を意識したネットワーク、コンピューティング環境を構築することは可能である。

話を戻すと、企業におけるシステム導入は多くの場合、業務分析に始まり、上流工程からの要件定義を行う。すなわち、業務ありきで業務を自動化、または情報処理を効率化するためのシステム作りと、システム構築を考える。そのため、その機能を満たさないソフトウエアは俎上にも上がらない。

しかし、パッケージソフトウエアは、誰かがそれを必要として作り、利用者の必要性に応じて発展したノウハウがそこに詰まっているものである。流行っているソフトウエアや、システムには多くの人がそれを使う理由がそこにあり、メリットがあるはずだ。

企業においても、そうしたソフトウエアに内包するノウハウ、思想、開発意図を業務の改善、改革に活用することができないか、という視点で検討を行うべきではないか?

確かに、米国発のソフトウエアでは、日本の会社における業務とは異なる部分も少なくない。さらに個人が日常で利用する道具と情報環境の多くは、その産まれた経緯が異なるために、重視する機能が異なっていることは確かである。SNSに見られるケースでは、一般のサービスではできるだけ多くの人に公開すること、新たな利用者を獲得することが目的である。最近は、そのような利用に対する危険性を指摘されるようになったため、一定の制約を設けることが多くなった。とはいえ、そもそも会社や組織の業務では、そのような機能が前提になることは求められない。

しかし、一旦、情報伝達、情報共有の必要性が生じた時には、組織内でそうした機能を提供するアプリケーションを導入しているケースは少ないのが事実である。ところが、現在パッケージ、サービスとして提供されている多種多様なアプリケーションには何らかの形で情報共有の機能がクラウドサービスを利用する形で提供されているのである。MicrosoftのOffice365でも、Word/Excel/Powerpointというデスクトップアプリケーションに比べて知名度は低いのだが、実際にはその中心にあるのは、Sharepointというドキュメント管理、プロジェクト管理サーバである。

おわりに

スマートフォンのもたらした社会の情報環境の変化は、非常に大きい。日常生活と企業活動では、異なることが多いことは確かであるが、情報資産という観点で、情報の取り扱いを考えるならば、決してその取扱いに本質的な技術の差は存在しないことがわかってくるはずだ。

企業内システムでは、建物さながらに、情報の「入れ物」に目を奪われてしまうことが多く、情報資産そのものに注目して、考えることを忘れてしまいがちである。スマートフォンとクラウドサービスの隆盛によってもたらされる世界では、入れ物だけでそれを守ることが難しくなる。いや、情報資産は目の前の入れ物に入っているとは限らないわけであり、セキュリティに対する考え方も同様に取り組む必要性が出てくる。

さらに、クラウドサービスの発展で起こりつつある変化として、Microsoftやいくつかの会社は、ソフトウエアベンダーとしてパッケージソフトウエアの開発、販売を行ってきたため、現状ではパッケージの販売も並行して行っているが、新しいソフトウエアやシステム、とりわけIoT関係ではその傾向が顕著であり、クラウドサービスを前提とするものも少なくない。こうした変化も今後の情報環境を考える上で留意すべき問題となりつつある。