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継続性のあるキャンパス情報ネットワークの構築の一提案

インターネットは社会生活に必須のインフラストラクチャである。検索サービスの発展とスマートデバイスの進化によって、情報ネットワークの利用者は、自ら体験し、自ら調べ、コミュニケーションを活用することによって、さらに高度な次元に進むことができる。インターネットやスマートデバイスは、個人の生活におおきな変革をもたらすツールであり、この活用が学生の未来を拓く一つの鍵になるといっても過言ではない。他方でキャンパス情報ネットワークの更新には、恒常的な資金が必要であり、資源配分の観点から適切な大学経営の関与が必須になる。

インターネットの発展と大学の関係

インターネットを取り巻く技術は急速に変化、発展している。大学の環境もいち早く新しい環境に適用できるものである必要がある。しかしながら、いまや必ずしも大学が最新のICT環境を提供できてはいない。それには次のような経緯と現実が存在している。

インターネットは、大学を中心として発展してきた。我が国においては、WIDE Projectや、東京大学理学部による国際ネットワークプロジェクトによって、米国のNSFNETとの相互接続が実現し、その後、学術情報センター(現:NII)のネットワークを活用した大学間ネットワークが構築され、大学でインターネットが利用できるようになった。その後、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)のサービス開始によって、日本でも民間、個人でのインターネットの利活用が可能になった。

しかし、2000年の時点では、大学では高速の学内ネットワークの整備がほぼ出来上がっていたのに対して、民間では、ダイアルアップ接続が中心であり、NTTの光ファイバーによるフレッツサービスは試験サービスを開始したばかりであった。

このように大学におけるインターネットの整備は非常に早い段階に行われたため、大学におけるインターネット環境は非常に進んだものとなっていた。本学においても、大きなブロックのIPアドレスの割り当てを受け、学内ネットワークが構築されている。

しかしながら、2000年代後半になると、NTTのフレッツサービスは急速に発展し、民間でのインターネット環境の改善をけん引していく。さらに、2007年にアップル社から、iPhone が発売されるとスマートフォンというユーザインターフェースに優れたデバイス(総称して、スマートデバイスと呼ぶ)が普及を始め、Wi-Fi と、モバイルネットワークの発展、普及につながった。

大学での設備更新は、4~6年の償却を繰り返しながら行われているが、この間のインターネットを取り巻く環境の変化はあまりに急速であり、大学におけるインターネット環境を置きざりにしたと言ってもよい。

民間のインターネット関連サービスは、最も激しい競争にさらされながら発展し、日々あらたなサービスと機器が誕生している。

自前構築からサービス・アウトソーシングへの転換

 こうした現状で、学生に対して望ましい環境を与え続けるための準備をしなければならない。急激な変化が起こっており、正確にそれを予測することが困難である。そのため、最低限の疑う必要のない技術トレンドを踏まえ、新たなサービスを柔軟に導入できる体制を構築する必要がある。

ネットワークの高速化、無線ネットワークの高度な活用、スマートデバイスの進化、そして、クラウドサービスの活用に関しては疑う必要のないものと思われる。

クラウドサービス、技術を積極的に活用することによって、自前のネットワーク構築から解放されることが最も大きなポイントである。学内に情報リソースを保持せず、クラウドを利用することによって、大規模な学内ネットワークを構築しなければならない理由を除去することができる。Webインターフェースのサービスは容易であることは言うまでもないが、リモートデスクトップサービスを利用することで、すべてのアプリケーションをクラウド利用に移行することができる。

これによって、大規模な学内ネットワークを廃止することができる。

クラウドの利用は必須

 基本的に、コンピュータリソースはすべてクラウドサービスを利用する。

学務・業務系のサーバについては、利用料を支払う必要がある。しかし、クラウドの大きな利点は適正なリソースを必要な時に利用できるということである。したがって、学務系システムにおいても、利用者の多い時期には、CPU、メモリを大きくし、長期休暇中は縮退運転をするなども可能である。

また、教育研究用には、マイクロソフトなどが無償提供しており、これを積極的に活用すべきである。

学生にとってのインターネット

インターネットは一般社会において、重要な情報インフラになっていること、またさまざまな学習機会において、ICTを活用する必要があることから、大学だけでインターネットが使えればよいというものではない。学生は、いつでもどこでもインターネットが利用できるべきである。従来は、大学のインターネットが進んでいたために、大学で利用することが中心であったが、現状を鑑みると大学外での利用の重要性は増加する一方である。この環境に関して、大学が無関心でいることは無責任であると言わざるを得ない。

急速なスマートデバイスの進歩の状況と、それを積極的に活用できる人材を育成すべきであるという観点から、積極的に大学が関与し、リーダーシップをとり、総合的なアクセス環境を提案すべきである。

スマートフォンを活用した、情報サービスは大学においても整備すべきであるテーマであるし、危機管理、災害対策においてもスマートフォンの活用が今後の重要課題である。また、スマートフォンを活用した、認証、決済サービスなどにも取り組むべきである。

モバイルネットワークの動向

無線活用のモバイルネットワークに関して、その活用の拡大は疑う余地はない。将来の規格として検討されている5G(第5世代サービス)においては、10Gbps以上の通信速度、エンドツーエンドで1ミリ秒以下の低遅延、99.999%以上の高信頼性を目指して開発が行われている。高速通信を実現するために、高い周波数帯域の電波を使う必要があるが、5Gでは6GHz 以下の帯域を利用することとしている。これは概ね現在のWi-Fiで帯域と重なる。この帯域の電波は直進性が高く、遮蔽に対して弱い。現在の、Wi-Fi にくらべて強い電波が使われると考えられるが、マイクロセル等の技術により、多数のアンテナの設置が行われると思われる。家庭内のスマート家電などで活用される近距離無線技術を除き、一般のインターネット利用においては、現行の Wi-Fiと5Gとは何らかの形での統合を模索するだろう。

インターネットアクセス環境と移行計画

現状で提供されているモバイルネットワークは、3G/LTE/4G ネットワークであり、概ね 10Mbps~1Gbpsのサービスが提供されている。価格については、急速に低下しており、1か月あたり20GBを定額で利用できるサービスも登場した。しかし、現状ではWi-Fiと併用することが現実的であり、Wi-Fiが利用できる場合には、Wi-Fiを使用することになるであろう。

しかし、自前の設備を廃するという観点から、大学内のWi-Fi環境も通信事業者の提供するサービスを利用するべきである。

大学は、開かれた環境であり、学会、研究会、研究交流、また学生に関しても、サークル活動等において、本学に所属するもの以外が利用できることが望ましい。ただし、セキュリティ的な観点から多人数が利用する場所において、無制限に自由に利用できるという環境は好ましくない。利用者認証を行いその利用を行うべきである。5G サービスが実現した時には、必然的に統合されると考えられるが、同様に 3G/LTEサービスとの統合的認証によりWi-Fiサービスを利用できることが望ましい。

通信事業者の提供する Wi-Fi サービスの多くは、他のインターネットサービスとセットで提供されていることが多く、3G/LTEサービスと統合したサービスを採用する方向で検討することが望ましいであろう。

費用負担について

最大の問題は、費用負担である。

現状のキャンパス情報ネットワークは90年代に構築したレガシーシステム。情報関係予算はおおむね5年ごとの機器更新分を用意しているが、これはあくまでこのままのレガシーシステムを続けることを想定したものであり、全面クラウドへの移行には発想の転換が必要である。

一方、学生はスマートフォンを利用するために、月額5,000円~10,000円の負担をしている。それに対して上記のように、大学では独自にインターネット、Wi-Fi環境の構築を行い、学生に提供している。しかし、学生の使用する情報端末の増加と、高トラフィックを必要とするアプリケーションの増加は、大学のネットワーク設備に関して過大な負担をかけ、設備投資額は増加する傾向にある。

このような、相互に連携のない二重投資は全くの無駄であるし、大学が学生の個人負担となっているスマートフォンの利用に関して無関心であるのは、はなはだ無責任であると言わざるをえない。

総合的に大学におけるインターネットアクセス環境、学生が利用する情報機器に関して検討することによって、適切なサービスの選択を行い、継続的に維持可能なネットワーク環境を得る努力をすべきで、大学としてユニークな方策を検討することが望ましいであろう。

通信事業者との提携の必要性

このような大学におけるネットワーク環境の提供は、現状の通信事業者のサービスとして行われているわけではない。モデルとしても新しいものであり、綿密な検討のもと、協力して取り組まなければ実現できないものと考えられる。

しかしながら、現在多くの大学の抱えている問題に対しての解を示すものであると確信している。そのため、積極的に通信事業者と提携を行い、数年かけて環境構築、ビジネスモデルの構築に取り組む問題であると考えている。