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インターネットショッピング雑感

IIJを始めて最初のうちは、インターネットはどういうものなのか、インターネットで何ができるかということを、まずは説明しないといけないので、講演やセミナーで何度も話をした。

何ができるかの中では、かならずインターネットでショッピングができるという話をするようになった。サンプルは、当時は Amazon.com や、wine.com だった。Amazon はまだ本しか扱ってないし、日本から見れば「洋書」なので、必要な人は限られているので、あまり興味を持たれなかった。それにくらべると、wine.com は、わかりやすいし、何より日本で買うのにくらべるとすごく安いので、その価格差の話を交えてすると、その利便性のことも理解されやすかった。

さて、今でこそ非常に一般的になったインターネットショッピングだが、岐路に立たされているのではないだろうか?楽天の海外展開が失敗に終わり撤退するというニュースが、2016年の始めから話題になっている。

インターネットショッピング、またはインターネット通販は、通信販売の一種であることには変わりない。インターネットが始まる前は、カタログ通販だったり、テレビ通販、雑誌の通信販売広告など様々なものがあった。

IIJを始めた直後、当時の通産省で、電子取引環境整備研究会というものに委員として参加した。委員の構成は、カタログ通販大手の社長や、弁護士など、インターネット関係者は私だけだった。電子商取引というカテゴリになると、いわゆる通販だけでなく、B to B 取引も含まれるが、一つの大きな関心はインターネットであったと思われる。なお、この時に知り合った室町正実弁護士とは、その後 JPNIC や、MEXでお世話になった。

インターネットショッピングを通販と同じようにとらえると、多くの場合、ターゲットを日本の利用者を設定し、商品を買い付ける、あるいは企画開発するというのが一般的だろう。テレビショッピングなどはその典型である。

日本のインターネット通販の草分けである楽天市場もほとんどがこのやり方であると言っていいだろう。日本人にとって、日本語という言語の壁があり、英語でのやり取りを苦手にしている。そのため、海外から買い付けた商品を販売するという分野は一般的なものだ。

通信販売は直接商品を手に取ることができないので、商品に対する不安がある。さらに言葉も習慣も異なる外国から買うなんていうのはとんでもない話だろう。

日本のインターネット通販最大手の楽天市場は、1997年に開始した。ショッピングモール形式のサイト構成であり、自身はシステムを提供するだけで、販売は出店する各店舗が行う形態を取っている。開始当初13店舗で始まった。ただ、この当時の個人のインターネット環境はまだダイアルアップが中心であったことを考えるとキラーコンテンツの一つであったことは間違いない。楽天市場がMEXに移ってきたのは、アクセスが増加して社内に専用線を引いてサーバを置いておくのでは間に合わなくなったころで、1998年後半くらいではなかったかと思う。2000年に株式を公開(当時の店頭市場)し、急成長した。

しかし、楽天市場は、日本人による日本人のためのショッピングサイトである。日本人の考える安心安全を提供することを主にしていて、日本にインターネット通販を浸透、定着させた功績は大きいと思う。

楽天と Amazon.co.jp との比較がよくされるが、Amazon は基本的には自社で販売を行う単一ショッピングサイトであり、ショッピングモールタイプではない。類似という点ではbiccamera.com や、yodobashi.com など量販店系のサイトもある。

インターネット通販が始まった当時、適した商品は、腐らないもの、小さくてある程度価値の高いもの、種類が多すぎて実店舗には品ぞろえをすることが難しいもの、が適していると話していた。腐らないものというカテゴリを打ち破ったのは楽天であり、楽天で最も売れるものはカニだというのは、一時驚きだった。

本という品物は、種類が多すぎて店舗には品揃えができないものの最たるもので、Amazonの成功のベースの一つはそこにある。さらに手に取って確認しなくても心配がない。衣類などの通販も今では一般的であるが、やはり手に取って確認したり、試着したりできないと不安は残るものだ。こうした分野で初期に成功した通販サイトは、それぞれ工夫を凝らしている。

しかし、ここにきて振り返ってみると、私が最初に目にし、わくわくしたのは、海外の通販サイトへアクセスして買い物をするということが簡単にできるということだった。Wine.com は、その後日本への発送をしなくなってしまったが、それ以外で日本へ発送してくれるサイトはたくさん増えた。じゃあ、今はどうなんだろうか?

たしかにインターネット通販は大きな利便性を提供してくれるようになり、注文すれば翌日には届くというのは、今の社会の象徴のようなものである。海外に注文して、翌日に届くというわけには当然いかない。

ショッピングモールタイプのサイトは、日本の楽天市場は代表的だが、アメリカにはほどんどない、eBay がそうだという分類もあるが、オークションのイメージが強い。日本でも、オークションは、ヤフオク(Yahoo オークション)で、Yahoo ショッピングと連携しているがヤフオクのほうが有名だろう。

しかし、今世界最大のショッピングサイトが、Amazonであることは疑いない。Amazonはマーケットプレイスという仕組みでショッピングモール的な機能を提供しているが、マーケットプレイスでは、Amazonに物流を委託することもできる。

日本から直接アメリカの Amazon.com に注文することはできる。しかし、残念ながら、日本に発送できないという商品もある。書籍に関しては、Amazon.co.jp で洋書も注文できるが、全部というわけではない。送料はそれなりにかかるが、やはり日本で売っていないものも少なくないので、たまに利用する。じゃあ、同じものが売っている場合どうなのかということだが、日本でたくさん売れるものは日本のサイトのほうが安いが、そうでないものは、まちまちだ。

中国のアリババが運営するAliexpress は、楽天市場と同じ、ショッピングモール型である。アリババは、B to B の Alibaba.com と、売り手と買い手が両方中国の場合の B to C サイトのタオバオ、売り手が主として中国で、買い手が世界中を対象としている Aliexpress.com、売り手が世界中で、買い手が中国の Tmall (天猫、天猫国際)がある。消費者として利用するのは、Aliexpress だ。

11月11日をネットショッピングの日として、大規模なGlobal Shopping Festival を行い、1日の売り上げが、2015年は、約1兆7億5000万円(これは、アリババグループ全体と思われる)というとんでもない数字を叩き出すショッピングモールである。

このサイトの特徴は機械翻訳で、100か国語以上に対応しているということだ。中国製品を世界中へ販売するということを目的としている。店舗とのコミュニケーションも機械翻訳が入るので、中国語や英語ができなくてもなんとかなる。ただ、私は、サイトの利用も、コミュニケーションも英語で行うようにしている。日本語への機械翻訳は変な日本語だし、こちらの書いたものもどういうように伝わるかわからないからだ。Aliexpress の魅力はやはりその圧倒的安さだ。サイトを見て回るといかに中国製品が世界を席巻しているかがわかる。そうしたものは直接買うほうが安いに決まっている。もう一つは、バリエーションの豊富さだ。衣類などでは、サイズが非常に幅広い。世界中を相手にするメリットだ。EMS や、DHL の送料を負担すれば早く届くようにできるが、そうでなければかなり時間がかかるので、そこは割り切らなければならない。それでも概ね日本の場合、2, 3週間で届く。

Buyer Protection もシステムとしてしっかりしている。原則的に、追跡可能な方法で送付される。あらかじめ決められた日数で届かなければ、返金を求めることができる。税関で止められてしまった場合にも返金してもらえる。問題は、届いたが、違っているとか、足りないとかの時である。そのため、届いたら必ず写真を撮る。開封したらまた写真を撮り、注文内容と照合する。ここで、注文内容と異なっていたら、その写真を証拠として返金を要求する。このプロセスでだいたい問題なく交渉できる。そういうシステム (Disputeシステム) が組み込まれている。それでも気にいらない時には、評価システムで悪い評価をつける。そうすると店舗にダメージがあるので、いろいろ言ってくるが、こちらは証拠を突き付けて交渉する。返品は送料がかかるので、違うものが送られてきた場合には、返送をしないで、正しいものを送ってくれるように交渉する。

こういうように言うと不安に感じるかもしれないが、問題が起きるのは100回に1回くらいで、だいたいは丁寧に対応してくれる。万が一、店舗が応じない場合には、Aliexpress が仲裁に入り、解決することになっている。そのために証拠が必要となる。高額商品では慎重にしておけば、憂いはない。

Aliexpressの Buyer Protection は、買い手が受け取ったら受け取り確認をしないと、店舗に支払いが行われないというという仕掛けになっているようだ。つまり、ショッピングモールが支払いをエスクローしている。これにより信頼性を担保しているわけだ。

支払ったのに送ってこないという問題は少なくともなくなる。それだけでずいぶん安心感は違うだろう。

楽天の海外進出の撤退は、日本の成功モデルを海外で展開しようとしたもので、Aliexpress のようなやり方とは違う。T-mall 型の海外の売り手が日本国内を対象にしたものや、Aliexpress のような世界中を相手にするサイトはあってもいい。Rakuten Global Market というのもあり、楽天市場の中で海外発送対応のショップが英語、中国語(繁、簡)、韓国語で利用できる。楽天市場からの機械翻訳を活用しているようだ。日本の商品の魅力があればきっと発展するだろう。