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インターネットへのつなぎ方 (1995)

これは、1995年に書いたものです。

インターネットへのつなぎ方 (1) — 専用線接続

いまやインターネットへつなぐには、多数のインターネットプロバイダの提供 するサービスの中から選ぶというのが当り前になってきました。サービスプロ バイダの提供するサービスはいろいろあるばかりか、同じように見えて値段が まちまちという事態が起こっていて、ユーザは困ってしまうでしょう。

現在提供されている接続サービスという点では、

  • 専用線による接続、
  • ダイアルアップ IP
  • UUCP

の 3 つです。今回はこの中で、専用線による接続を中心に取り上げます。

インターネットは、LAN 間接続、ネットワークのネットワークと言われます。 インターネットが現在のような TCP/IP ベースの LAN 間接続の形態になった のは 10 数年前からです。TCP/IP ベースの LAN 間接続では、専用線や、一部 パケット網を使って接続が行われてきました。この場合の専用線やパケット網 は “いつもつながっている” ネットワークです。

インターネットはこの “いつもつながっている” ことを前提として作られて います。ネットワーク管理面でもアプリケーションでもこのように作られてい ます。

インターネットは分散環境です。ネットワーク上に分散するリソースをサーバ、 クライアントや、リモートプロシージャコール、分散データベースで共有し、 アプリケーション体系を組み立てています。双方向からの対等な、ランダムな 接続要求に答えられることが必要です。アプリケーションの利用要求は、ネッ トワークの末端から基幹に向かって行われるけれども、分散管理は DNS の例 のように、ネットワークの基幹側から、末端側へ向かっての情報の要求が行わ れます。

信頼性の高い通信は、フローコントロールと、再送のコントロールによって、 通信内容の確かな到達を確認しながら進みます。障害の自動的な回復という点 では再送が自動的に行われることが必要です。

たとえばメールの配送系の SMTP や sendmail についてみてみると、送る側主 導で、相手に送ることを試みます。送れないと、一定時間後に再送を試みます。 受け取る側から、ポーリングをかけて溜っているメールを取得するというプロ トコルは SMTP にありませんし、sendmail にもそのような機能は入っていま せん。UUCP は間欠接続を前提としていますから、溜っているメールやニュー スをポーリングします。

尤も、いつもつながっていなくても、必要なときにつながれば構わないわけで、 最近の ISDN ルータでは、パケットがくるとすぐにつながりますから、あたか もいつもつながっているかのように振舞うことができます。しかし、この場合 その ISDN の部分は従量課金が行われますから、このようなことをしたら、課 金のコントロールができません。つなぎっぱなしにならないとも限りません。 SMTP での送り先のコンピュータがたまたま停止していると、一定時間ごとに 再送を繰り返します。SMTP に限らず、インターネット側からの接続要求はい つ起こるかもわからないし、かつ一般に受け取れないなどの事態があると自動 的にリトライをするようになっています。

インターネットで要求される接続は、常時つながっていて、定額料金であるこ とが必要なのです。途中に従量課金があると、最終目的のホストにトラブルが あると、再送のたびに課金されることになってしまいます。信頼性を確保する ためのプロトコル特性が裏目に出ます。

このような特性を持った広域ネットワークを構築するために、たまたま専用線 しかなかったというわけです。専用線でなくてもこのような条件を満たすもの があれば構いません。フレームリレーサービス、ATM もこのような条件であれ ばよいわけです。残念ながらフレームリレーサービスでは昔のパケット交換の 名残で従量課金を行っているものが少なくありません。これでは結局インター ネットでは使えないのです。

NTT の近距離専用線値上げ (遠距離値下げをペアにした、リバランシング) ば かりが問題になっていますが、NTT はインターネットのようなコンピュータネッ トワーク専用のサービスとして、安価なものを準備しているといわれています。 現在の専用線サービスは、音声を含めてなんでも通せるものになっていて、コ ンピュータネットワークのアクセス回線としてはオーバスペックです。なぜな ら、人と人との話しには、沈黙に意味があるかもしれませんが、コンピュータ 通信では沈黙には全く意味はありません。末端のユーザの部分の回線ではいつ もつながっていて欲しいが、いつもデータが流れるわけではないわけです。 このようなことを実現しているのが、パケット通信なのですが、パケット通信 がインターネットのようなネットワークと親和性が悪いのは、遅くて、パケッ ト単価が高すぎるということなのです。INS-P で提供されているのは、パケッ ト交換網で、これは電話のような回線交換網と同じようにどこにでもつながる 機能があります。インターネットで必要なのではどこにでもつながる機能では なく、NOC までつながれば十分なのです。

インターネットの要求は、まだあります。インターネットは LAN 間接続で ある、すなわちさまざまなネットワークの相互接続です。Ethernet あり、 FDDI あり、最近では ATM LAN があったり、自営のシリアル接続や、無線も使 われていたりします。こうした、さまざまな技術を混ぜて、そして全体として 信頼性の高い通信を確保しようとする仕組みであり、通信サービス泣かせとい えるのです。ネットワーク全部が同じ種類の接続形態、たとえば X.25 の上に 構築されているとかなら、X.25 の信頼性を前提にしてプロトコルを設計でき るでしょう。しかし、新たに生まれる高速なネットワーク技術をもいち早く取 り込めるためには、特定の通信技術を前提にしないネットワークプロトコルで なければならないのです。コネクションレスの IP とその上に構築された TCP や UDP で、端と端のコンピュータの間の通信を高信頼性で行う必要があ ります。フローコントロール、誤り再送制御等は、両端のコンピュータの間で 行われます。途中の経路はパケットを始点から終点まで届けるための経路制御 だけを行えばよくなっています。

このようにしてみてくると、ユーザが NOC まで接続するのには、専用線はい まそれしかないのでしかたなく使っているということが分かると思います。

これをバックボーンネットワークとの関係を考えてみます。沈黙は意味のない ネットワークが、沈黙の部分を削り、情報を集約をするのが NOC であり、バッ クボーンです。NOC からユーザまで回線は沈黙も含め、いつも目一杯使われて いるわけではないので、(ユーザの回線の速度)×(ユーザ数)>(バックボーン の速度) となっています。バックボーンの回線を利用者で分け合っているわけ です。一般に VAN と言われるものはみんなそうです。そのためピーク時にみ んなが使って混んでいるとき、遅くなったりします。この比率を大きくすれば、 つまりバックボーンを細くすれば安くサービスを提供できます。バックボーン を十分確保することは、非常に高価な日米間の回線などの場合、大きくコスト に跳ね返ってきます。全国的に均一にリソースが分散していればバックボーン の負荷も均一化するのですが、残念ながら現在は、東京地域、さらにそこから アメリカへのトラフィックが支配的です。バックボーンの負荷は、東京からア メリカ、全国から東京へが大きいわけです。

全国に NOC を展開することはどういう意味を持つかというと、仮に NTT の料 金が全国均一だったとすると、東京都内での接続も、札幌から東京までの接続 も同じ料金ですから、インターネットプロバイダは NOC を分散する必要があ りません。通信料金の遠近格差が大きいから、近くにアクセスポイントが来て 欲しいと思うわけです。

一方、NTT や NCC が専用回線で遠隔地間を結ぶときに、その 2 点間に物理的 な 1 本の線を引くわけではありません。NTT のバックボーンを時分割多重し て、その一部にのせて運ぶだけです。これに対してインターネットプロバイダ は、IP のデータグラムのレベルで多重化しています。似たような技術が何度 も使われていることになります。

電話が現状の程度の値段で利用できるのは、電話の利用する頻度見積りは非常 に低いためです。つまり同時に実際に利用するのは、1000 人に 1 人とか、 2000 人に一人とかという見積りになっています。実際、自分で電話を使うこ とを考えたら、1 日平均何分使うか、月にいくら電話料金を払っているかなど から考えればわかると思います。おそらくこの本の読者は電話をたくさん使う 人でしょうから、もっと使われていると感じるでしょうけれども、全体を平均 したらそんなもんです。ですから、先日の阪神大震災の時のように通話が集中 したら輻輳して通話が成立しなくなります。インターネットでは遅くなるとい う現象が、交換網では通話が成立しない、つながらないということになります。

現在のインターネットサービスでは 1 ユーザあたりの利用は非常に大きく、 さらに WWW の画像など量の多いものが増加傾向で、バックボーンへの負荷は より大きくなる傾向にあり、これに対応することが要求されています。おそら くこれはまだまだ大きくなるでしょう。

インターネットプロバイダはこうした状況と戦いながら現実のネットワークを できるだけ合理的に作ろうと日々苦労しています